少し前の話になります。2013年のある日、実家に税務署員が一人、なんの前触れもなく訪ねてきたました。
実家には高齢の父が一人で住んでおり、私は2010年から、中国地方の実家と関西の自宅とを行き来していましたが、たまたま私も実家にいるときのことでした。
最初は新手の詐欺か何かかと思いましたが、間違いなく税務署員でした。「最近、金の売却をしていないか」と聞いてきました。
心当たりがありました。
兄の遺産の純金積立・プラチナ積立を換金していました
2008年、当時50歳代の兄がなくなりました。兄は独身で、すべての遺産は父一人が相続することになりました。
兄はとても倹約家でした。退職後の生活に備え、投資信託、個別株などで資産形成をしていました。遺産総額は当時の相続税の基礎控除額を軽く超える額でした。
兄の遺言と父の意向で遺産分割をすることになり、それらをすべて現金に変えました。その中に「純金積立・プラチナ積立」もありました。
兄の遺産はきっちりと相続税の申告をしていました
兄の遺産は税理士を立ててきっちりと申告していました。
税務署員の方は書類があれば見せてほしいということで、相続税申告の書類を提示しました。さらに相続した財産の現在の状況も聞いて来ました。相続した財産を現金化してまとめている預金通帳を見せることになりました。
兄の遺産は父がいったん全額を相続し、その後段階的に、縁者に贈与する形で分割していました。その「贈与契約書」も作成していたので、それも見せることになりました。預金通帳や贈与契約書の写真も撮らせてほしいと言うことで承諾しました。
純金積立・プラチナ積立について現金化していることを伝えると所得税の修正申告が必要になるかもしれないので、後日関係書類を持って税務署まで来てほしいとのことでした。
純金積立・プラチナ積立とその税金について勉強し、兄が残した書類を改めて調べることになりました。
兄の純金積立・プラチナ積立は大きな利益が出ていました
兄が残した書類を引っ張り出して詳しく調べました。
積立実績は以下の通りでした。
積立期間 | 積立額 | |
---|---|---|
純金積立 | 9年1ヶ月 | 毎月1万円 賞与月+10万円 |
プラチナ積立 | 7年6ヶ月 | 毎月3万円 賞与月+3万円 |
売却益は以下の通りでした。
取得金額 | 売却金額 | 売却益 | |
---|---|---|---|
純金積立 | 329万円 | 672万円 | 343万円 |
プラチナ積立 | 318万円 | 442万円 | 124万円 |
合計 | 647万円 | 1114万円 | 467万円 |
今考えるとこの売却益を申告しなければならないのは当然のことですが、当時私は全く投資について興味・知識がなく、まして純金積立・プラチナ積立やその売却益の税金についてはまったく無知でした。
金・プラチナの売却益は「譲渡所得」として総合課税の対象になります
個人が金・プラチナを売却した場合の所得は、原則、譲渡所得として課税されます。給料など他の所得と合わせて総合課税の対象になります。
譲渡所得の計算方法は、その資産の取得の日以後5年以内にされたものを短期譲渡所得、5年超の場合を長期譲渡所得として、その所得金額の計算方法が異なります。長期に所有した場合に譲渡所得が低くなる設定です。
課税譲渡所得金額
(1)短期譲渡所得(所有期間が5年以内)
売却価額-(取得価額+売却費用)-特別控除50万円
(2)長期譲渡所得(所有期間が5年超)
{売却価額-(取得価額+売却費用)-特別控除50万円}×1/2
- 特別控除額は、その年の譲渡益の合計額全体に対して50万円となります。
- 譲渡益が50万円以下の場合にはその金額までしか控除することができません。
- (1)と(2)の両方の譲渡益がある場合には、控除額は両方合せて50万円が限度で(1)の譲渡益から先に控除します。
短期売買益・長期売買益を調べました
残された書類を詳しく調べ、なんとか短期売買益と長期売買益を算出することができました。
売却益合計467万円
短期売買益:73万円
長期売買益:394万円
特別控除額50万円はすべて「短期」で控除できるので
(1)73万-50万=23万円
(2)(394万-0万)×1/2=197万円
(1)+(2)=220万円
譲渡所得は約220万円ということになります。
書類を持って税務署に行きました
兄の残した書類と私が作成した計算書をもって税務署を訪れました。
提示した書類に異議などはなく、あっさりと「それではこれで修正申告します」ということになりました。父の2010年の所得税を修正申告することになりました。
後日、以下の納付書が送られてきました。
修正申告所得税177,700円
延滞税24,400円
今は事業者から支払調書が提出されます
2011年の所得税法改正にともない支払調書制度が導入されました。顧客への支払金額が200万円を超えた場合には、事業者は、顧客の「住所・氏名・マイナンバー」と取引内容を記載した「支払調書」を税務署に提出することが義務づけられました。
兄の遺産の金・プラチナの場合は、2010年に解約したので支払調書はでていないはずです。税務署がどこから売却を知ったのかわかりません。税務署員にそれとなく聞いてみましたがはっきりとは答えてくれませんでした。税務署は「個人の預金口座の取引を調べられる(ネットの情報)」ようなのでそれかなと思います。
投資信託・個別株では大きな損失が出ていました
兄の遺産は相続金額を確定するためすべての資産を現金化しましたが、その時はそれぞれの資産の損益は考えていませんでした。
改めて兄が残した書類を調べてみると、金・プラチナで大きな利益が出ている一方で、投資信託・個別株では大きな損失が出ていました。
リーマンショック後に解約・現金化したので大きな損失になっていました。当時は、そのような経済事情もあまり意識していませんでした。
投資信託・個別株の売買で得た譲渡益は「申告分離課税」で給与等他の所得と区別して税金の計算をします。一方、金・プラチナの売買で得た譲渡所得は給与など他の所得と合算して「総合課税」が適用されます。
「投資信託・個別株」と「金・プラチナ」は損益通算ができません。投資をする人にとってはある意味「常識」だと思いますが、そのときはそんなことも知りませんでした。
いい勉強になりました。。。